SARS

ベトナムの状況
 3月半ばよりベトナムを初め、あちこちで猛威を振るっているSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome:重症急性呼吸器症候群)について簡単にまとめます。
 SARSは2/26にハノイで初めて発症が報告されました。発症者は中国系アメリカ人で中国、香港を旅行したのちにハノイで発症し、ハノイのフランス病院で治療を受けていましたが緊急移送で香港へ戻り、結局香港で亡くなりました。その後の調べで中国では昨年の11月より非定型の肺炎が流行していることが分かり、4月に入って中国もようやくこの肺炎がSARSと同じであることを認めました。現在は広東がこの世界的なSARSの発生源と認識されています。
 ベトナム国内における感染は、4/28にSARS制圧宣言がなされるまでのすべての症例がこの最初に報告されたハノイのフランス病院のケースに関連して起きています。まずはこの患者の治療にあたった医療関係者や同時期に病院に入院したあるいは訪れた人と家族が計50数名発症し、そのうち4名が死亡しました。
 その後ベトナムはWHOの支援を受けてSARSの拡散防止に努めかなりの部分成功し、一旦は3月末にベトナム政府から安全宣言が出されるまでになりました。が、4月の初めになってニン・ビン省で3月にハノイのフランス病院を訪れていた人が発症し、またしばらく感染の広がりが懸念されていました。また、死者についてもフランス病院で治療にあたっていたフランス人医師が4月に入って亡くなり、合計5名となりましたが、結局対応策が効を奏し、感染の広がりは食い止められました。
 最後の感染者の報告から20日間(潜伏期間である10日間の倍)経っても新たな感染者が出なかったことから、ベトナム政府は4/28にSARSの制圧宣言を行いました。これはWHOの基準に従った声明です。
 WHOによるハノイのSARS終息確認は以下のページを御覧ください。

http://www.who.int/csr/sarsarchive/2003_04_28/en/

日本語訳は国立感染症研究所のページを参考に
http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/update41.html

 ただ、ベトナムは中国からの深刻な感染の危機にも面しており、旅行者からの感染が発生する危険があるとの注意もWHOからされています。

 WHOの感染地域指定の解除を受け、日本の外務省も渡航情報を修正し、ハノイに出されていた注意喚起は解除されました。

http://www.pubanzen.mofa.go.jp/info/info4.asp?id=15#danger

 ベトナム保健省は、中国との国境閉鎖について首相に提言していましたが、なんらかの理由で国境閉鎖の方針は翻されました。ただ、中国国境が非常な問題であることは十分に認識されており、かなり厳しく調査をする方針と説明されています。

 さて、なぜベトナムが最初にSARS感染の連鎖を断ち切ることができたかですが、まずは初動が早かったことでしょう。最初の患者が発症した時には、これが新たな感染症(SARS)であるとは分からなかったわけですから、当初患者の治療にあたった医療従事者が多数同時に感染しました。ここでベトナムはWHOへの報告をすると同時にその援助をあおぎました。WHOはその要望に答え、感染国の中で最大の支援をベトナムにし、その適切な助言をベトナム側が受け入れ、徹底的な隔離政策で感染の広がりを食い止めたということになると思います(この隔離政策を提言したWHOのイタリア人医師
Dr. Carlo Urbani は3/29にSARSで亡くなっています)。この支援の中には日本が行ったものもあり、有効に働いた様です。
 すべての感染者はバック・マイ病院熱帯医学研究所に収容隔離されて治療を受けました。志望した患者以外のすべてがすでに回復し、現在入院している患者はおりません。
 バック・マイ病院には3年前よりJICAから専門官が派遣され、現在も五名駐在しているとのこと。今回緊急に派遣された援助隊と協力して、指導援助した模様です。

国際緊急援助(JICA)
派遣ニュース1
派遣ニュース2
派遣ニュース3
報告1
報告2


 現在のベトナムの不安要因は中国からの感染者の流入です。国境貿易や観光客の検査を厳しくするとのことですが、国境閉鎖には踏み切れないなど、やはり中国との関係にはいろいろと難しいものがある様です。この点に関してはかなり不満が残ります。
 また、中国で一時閉鎖された大学への留学生がベトナムに戻り、新たな感染源となるのではないかと不安を呼んでいましたが、今のところ新たな感染者が出たとの報告はなされていません。


累積患者数
 SARSについてはまだ検査法が完全には確立していないため、 WHOはいくつかの症状が確認された可能性例で統計を取ることを決めており、各国はこれに従って患者数を報告しています。ただ、日本政府は表面上SARS患者を出したことにしたくないためか、確定例が出るまでSARS患者が出たことにしていません。



(WHO発表の感染者累計数よりのまとめ)


SARS伝播国と危険情報
 ベトナムはWHOの伝播確認地域の指定を4/28に解除されました。また、同様に伝播確認されていたシンガポールも5/30に指定を解除されました。
 現在地域内伝播が確認されている地域は以下の通り。

 トレースできない感染が生じている:中国(北京、広東、内モンゴル、山西、天津)、台湾
 三次感染が起きている:中国(河北、香港、吉林)
 二次感染まで:中国(湖北、江蘇、陜西)

現在、WHOが不急の旅行は延期するようにと渡航延期を勧奨している対象国は以下となっています。

 中国(北京、山西省、天津、内モンゴル)、台湾(台北)

 WHOは現在SARSの感染拡大を防ぐため伝播確認地域でのスクリーニングを義務付けています。これは空港において、2、3の質問をし、感染の可能性がある場合には意志の診療を受けさせるというものです。
 当初のWHOの公式見解は渡航延期を推奨している地域以外への観光や貿易などの交流はさまたげられるべきではなく、WHOの注意喚起はこの病気への十分な理解と警戒を促すためにされているとのことです。
 WHOはまた、伝播確認地域からの荷物等について感染に影響するかを検討していましたが、これらについては感染の危険はないと判断されています。
 また、日本においては外務省から渡航情報(危険情報)が以下の地域に対して出されていますが、ベトナム(ハノイ)は4/29に解除されました。

 退避勧告
 渡航延期推奨
 渡航是非検討 中国(北京、天津、河北、山西、内モンゴル) 台湾
 注意喚起 中国(全土、広東、香港、マカオ)

 安全情報において注意喚起とは旅行するにあたって注意すべき点があるので留意するようにとの主旨です。一方、北京、天津、台湾については不要不急の旅行は延期を推奨しており、実質的に一段上の警報となっています。


 
SARSの原因
 SARSの原因については4/17にWHOのプロジェクトチームによって、カゼを引き起こすコロナウィルスの新種と同定され、SARSウィルスと名付けられました。
 感染経路としては飛沫感染など濃厚な接触によるものとされ、空気感染については現在のところ可能性は低いとされています(当初、集団感染が起きた香港のアモイガーデンでは下水の逆流とねずみ、ゴキブリの介在によって広がったことがほぼ判明しています)。したがって予防方法としては、マスクの着用やうがい、手洗いの励行などが有効とされています。
 発症にいたるまでの潜伏期間は多くの患者で2〜5日間、だいたいは10日間までとされています。感染が疑われた場合については、現在のところ現実的なバランスを考え、隔離しての経過判断を14日間までとしています。

予防
 現在のところ、ワクチンなどの有効な予防措置は確立しておりません。現在は飛沫感染や接触感染が最も疑われておりますので、マスクの着用やうがい、手洗いの励行が勧められております。
 また、なるべく人込みは避ける、特に病院は感染者がそうと知らずに来ている可能性がありますので、なるべく近寄らない方が無難です。SARS感染が疑われる場合などに病院を訪問する場合は、自分の感染を防ぐのに並んで、他者への感染を避けるためマスク着用して下さい。日本に戻ってきて、疑いが出た場合は感染者を扱える病院が限られていますので、まずは地域の保健所等に電話で連絡し、助言を受けて下さい。場合によっては、感染予防の機構を持った救急車で移動しなければならない可能性もあります。

関連ページへのリンク
厚生労働省検疫所
http://www.forth.go.jp/

国立感染症研究所
http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/update.html

WHO
http://www.who.int/en/

外務省の渡航情報
http://www.pubanzen.mofa.go.jp/c_info/info/sars.html

外務省危険情報の内容(ベトナム)
http://www.pubanzen.mofa.go.jp/info/info.asp?num=2003T088&ST=M

SARS情報を統合した個人のページ
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/7663/