本の紹介

 ごらんになると分かるように、僕は結構堅い本が好きだったりするため、ここで紹介している本はかなり偏っています。全くの僕の趣味で選んでいますので、何であの本が載っていないのっ?て怒らないで下さいね。

日本人のベトナム滞在記

神田憲行

 ベトナム関係で好きな本には近藤紘一『サイゴンから来た妻と娘』を始めとしていろいろあります。でも、最近の本の中では神田さんのこの本が一番気に入っています。出だしはなんじゃいなこいつという感じでしたが、読み進むうちに結構引き込まれてしまいました。お薦めです。
 ベトナムに旅行でなく住んで生活したとき、どうなるか?いろんなトラブルに合ったりもするだろうなと思っていましたが、やっぱり大変みたいです。でもそんなトラブルに遭いながらもやっぱりベトナムのことが好きなのが分かる。神田さんにはこれからも活躍してもらいたいです。
 話によると年末から来年にかけて、増補した改訂版が文庫本で出るそうです。どんなものになるか楽しみ。
著者の許可を得て掲載

ハノイの純情、サイゴンの夢
 神田憲行著 講談社文庫

 前作『サイゴン日本語学校始末記』に加筆訂正したうえ、新たにベトナム紹介の2部、3部を加えた新作。前作に比べ導入編がベトナムへ溶け込む過程を描いて僕にはしっくりとします。2部、3部では一部に過激な表現もあるもののおもしろい本となっていると思います。
 でも、このタイトル偽りありだな。『ハノイの純情』なんてほんのちょっとだよ。でも、作者に言わせると『サイゴンの夢』なんてどこにも書いてないぞですって。


  
飯塚尚子 世界文化社

 最近('98)読んだ本の中では抜群に面白かったです。著者は神田さんと同じように日本語教師として、ハノイへ赴任し、そこで日本とはまるで違った、でもどことなく親しい世界を見つけます。毎日のように起こる文化ギャップからの問題。それを著者は、ある時は笑い話として、ある時は考えさせる問題として提示します。
 3年間のベトナム生活と合間の休みに回った近隣の国への旅物語は、とても魅力的であこがれを感じさせます。マレーシアでご飯をおごってもらったエピソード。教え子たちとの交流。著者自身の生き方が魅力的だから、教え子も魅力的に感じるのだろうか。
 仕事として行っているベトナムは必ずしも好きな国ではなかったかもしれなかったけど、心に残る国としてあるような気がします。
著者の許可を得て掲載

メコンデルタ単身赴任記 金忠男/吉原忍/野田孝人 鳥影社
 農業関係の研究者である著者たちが、共同研究プロジェクトでカントー大学とカントー近郊の研究所に単身赴任し、生活する間に見聞きしたベトナム人の世界。実際に生活をしているといろいろをおかしく思うことが多く、それが読んでいる方としてはおもしろいです。
 ベトナムであったトラブルなどについて結構辛口のことも書いています。

ベトナム現代史
ヴェトナム戦争全史 小倉貞男著 岩波書店
 関係者のインタビューから再構築したベトナム戦争についての全体像をまとめた本。『サイゴン解放』が思わぬハプニングでおきたこと、合衆国がベトナムの泥沼にはまっていく様子がよく分かります。特に一般に言われてきた、後戻りできないポイントを超えたのがケネディ大統領ではなくジョンソン大統領であったことを指摘しているのは秀逸。
 サイゴン陥落/解放後20年たって、解放戦線の隠れた戦士が出てきたり、マクナマラ元国防長官の回顧録も出たりで、新たな証言も得られそうなので改訂版が出ることが望まれます。

マクナマラ回顧録 R.マクナマラ著 共同通信社
 何というか非常に悲しい本です。アメリカにとってベトナムは遥か離れた地で、それ以上に重要な地域があったために深く検討されることもなく深みにはまってしまったということなのでしょうか?特に50年代のマッカーシー旋風のために専門家が払拭しており、そうしたアドバイスが得られなかったということも致命的に効いている気がします。また、上記のヴェトナム戦争全史でも触れられているように、引き返すことができなくなるほど深みにはまったのはジョンソン大統領の決定のようでした。
 マクナマラは30年の後にこの本を書くことによって贖罪した気になれるかも知れないけれど、死んでいった人々を取り返すことはできないのです。ただ、マクナマラ氏の誠実さはこの本からうかがえます。だからこそ、もっとやりきれない気になってしまうのですが。

我々はなぜ戦争をしたのか 米国・ベトナム 敵との対話
 東大作著 岩波書店
 1998年に放映されたNHKスペシャル『我々はなぜ戦争をしたのか ベトナム戦争 敵との対話』のディレクターが番組に織り込めなかったインタビューなどの詳細を盛り込んで再構成した本。戦争の当事者同士が対面して、歴史的なターニングポイントについて討論するという画期的な会議の記録です。
 この本を読んでまず感じるのがアメリカの傲慢さ。ベトナム戦争の原因を相手側にもあったと責任を押しつけようとする態度です。しかし、一方のベトナム側にも合意を恣意的に解釈し、相手に不信感を与えるようなこともしていました。
 まずはNHKのビデオが手に入れば、それを見てから読むとおもしろいと思います。

ベトナムの現在 古田元夫著 講談社
 最近出た本(96/12)ですが、現代ベトナムの政治状況についてよく分かる良い本だと思います。特に民主化についてのベトナム国内の状況について、これまで知り得なかった情報があり、ベトナムの将来について意外に希望をもたしてくれます(まあ、時間はかかりそうですが)。ベトナム理解に欠かせないのではないかという気がします。

ベトナム革命の内幕
 タイン・ティン めこん
 ニャンザン元副編集長がフランスに行って発表した現政権批判の書。権力中枢にいた人物ならではの人物評がおもしろい。保守派から改革派に転じたチャン・スアン・バィックの例などを読むと情報の持つ力に改めて驚かされる。バィックは国外の情報収集の責任者となってから急速に改革派に転じた。が、結局党内の一般的意見とはならずに失脚した。
 また、作者のヴォー・グエン・ザップ将軍への畏敬も印象に残った。将軍が政権の中枢から排除されていったのは残念なことだった。
 最も批判の対象となっているのはレ・ズアン。現在のベトナムの遅れはすべて彼にあるかのような記述が見受けられる。今現在のベトナム共産党の姿はホ−・チ・ミンよりもレ・ズアンが作ったとは言えないだろうか?
 西洋社会への無批判なあこがれが散見されるが、権力中枢から見たベトナムが分かる(本当のことは分からないが)良い本だと思う。

ベトナムへの道
 中原 光信 社会思想社
 ベトナムの歴史や社会に関する記述とともに北ベトナムとの貿易を担ってきた日越貿易会の歴史についても書いた本。親米、ひいては南ベトナム寄りであった日本で、このように北ベトナムとの交易に心血を注いだ事実は読んでいて、とても不思議だった。その謎は終わり近くで明らかにされる。
 著者の中川氏は、現地で終戦を迎えた後、ベトミンに参加し、54年に帰国して日越貿易会の創立に参加した。現地に残って同様な行動をとった人は約1000人、生きて日本に帰った人は100人程度と言われる。自身が参加したベトミン、ひいてはその後継者である現在のベトナム政府と立場が似てくるのは著者の過去から仕方ないことであろう。全体の記述はベトナム政府寄りと考えられる点が多い。
 もっとも、著者自身が『この書の記述にいささか日越友好関係の進展に対する思い入れの強すぎる点があるとすれば、半世紀前にアジア諸民族の独立と協力を夢見た若者たちの情熱の残り火として寛恕していたただければ幸いである』と述べているように、これはある意味で当然のことかもしれない。そして、そういえる著者にちょっと嫉妬してしまうのでした。

 

南洋学院 戦時下ベトナムに作られた外地校
 亀山哲三 芙蓉書房出版
 戦時下ベトナムに作られた南洋経営(これは支配と言うのだろうか?)のための国策の学校『南洋学院』の一期生である著者が、その短い歴史とそこの学生の変遷について描いたもの。この南洋学院の卒業生たちが設立した日越文化協会とその事業である南学日本語学校については、現地における良質な日本語学習者の供給で有名である。
 若くしてサイゴンに赴き、理想に燃えて入学して学習した南洋関係の知識は、その後の戦争の変遷により、南洋学院出身者に過酷な運命の展開のもたらす。ベトミンに参加して、10年をベトナム独立闘争に捧げたもの。対照的にフランス軍に身を投じて、それを妨げる側に回ったもの。各人が生き残るために模索し、それを果たせなかったものも多い。
 現代から振り返るとその意味が否定されることになるだろう南洋学院も、同時代のその関係者にとっては取り替え難く、また理想を持ったものであることが分かります。

ブラザーエネミー
ナヤン・チャンダ めこん
 サイゴン解放以後の第3次インドシナ戦争を関係者へのインタビューを元に、詳細に分析した好著。兄弟党として友好関係にあると思われてきたベトナムとカンボジア、そしてベトナムと中国のもろく、微妙な関係を綴る。著者は、ファーイースタン・エコノミックレビューのベトナム駐在員として活躍、サイゴン陥落も、第3次インドシナ戦争もその目で見てきたジャーナリスト。日本の記者もこれくらいの本が書けるといいのですが、どうもそこまで達している本はないような気がします。
 しかし、改めてカンボジアの悲劇をこうして読むと、人間というものの悲しさを痛感させられるような気がします。自らの責任もあるとはいえ、シアヌーク国王のたどった道もまた苦難に満ちています。
 また、中国の傲慢さにはやはりあきれさせられます。ベトナムを『懲罰』するというあの感覚。やはり中華世界の宗主という意識は抜けないのでしょうね。

ベトコンメモワール
チュオン・ニュ・タン 原書房
 ベトナム南部解放戦線の幹部として活躍したものの、サイゴン解放後の急激な社会主義化に異を唱え、結局フランスへと亡命せざるをなくなった著者の回顧録。別に挙げている『ヴェトナム戦争全史』のグェン・フー・ト解放戦線議長へのインタビューなどと比べて読むとおもしろいかも。著者のように、建前と理想を信じて解放戦線に参加し、結果的に裏切られた人は結構いるのだと思います。多くの責任は、レ・ズアンやレ・ドク・トを始めとする親ソビエトの教条派にあるのではないかと思いますが、1954、55の農地改革といい、ベトナム戦争終結後の対応といい、現政権は全ベトナム人に支持される機会を逃したような気がしてなりません。

日本人から見たベトナム
ハノイからの招待状 
東郷仁&古屋典子共著 同朋舎出版

 僕の最初のハノイの印象は結構悪くて、なかなかまた行こうという気にはならなかったのですが、この本を読んでトーリック川沿いを歩いてみたくなりました。今ではトーリック川沿いの街並み(トィクェ通り)は僕のお気に入りで、ハノイに行く度に寄っています。
 著者はおそらく外交官で、変わりゆくハノイの街やベトナムがいきいきと描かれています。

ベトナムのこころ 皆川一夫著 めこん
 これも著者は外交官で、ベトナム人の奥さんを持っている方です。ベトナム人の特質について詳しく書いています。知り合いのベトナム人の方はすべてが正しいとは言えないけれども、とても良い本だとおっしゃっていました。
 印象に残るのはやはり、キム・ヴァン・キェウなどから取ったベトナム語の言い回し。

ハノイから吹く風−サイゴン陥落を伝えた日本女性−
 中村信子著 共同通信社
 ベトナム人留学生と結婚し、夫の帰国に伴ってベトナムに住むようになった日本人女性の回想録。夫になった男性は、現代ベトナム農業の父と言われるルォン・ディン・クァ博士。ベトナムでは聞けばたいていの人は知っているという方のようです。博士は、南部出身にも関わらずベトナムの独立闘争開始とともに北部入りしようとして果たせず、1956年頃に行われた集結(タップ・ケット)に参加して北部入りした愛国者でした。主人公の中村さんは、ハノイで日本語放送の立ち上げに参画し、サイゴン陥落を日本語で伝えました。現政権に配慮して書いていないことも多いような気がするのですが、なかなかおもしろい本でした。

サイゴンから来た妻と娘
 近藤紘一 文春文庫
 ベトナムというとまず取り上げられる有名な本です。僕はどちらかというとこれを元に作られたNHKのドラマが子供心にすごく印象に残っているのですが。なぜか一番印象に残っているのは近藤さん御両親のお家の池の鯉を料理して食べてしまった場面。今思えばベトナム料理は多くの川魚を使いますから不思議はないことですが、日本では魚は海のものが普通だから。雷魚を食べようなんてあんまり思いませんものね。
 本を読み返して気になるのは、奥さんが日本に来て思った『日本人って何で楽しくない顔をして生きているのだろう』ということでした。人生観も違うし何とも言えないことなのですが、人生を楽しんでいないというのは多くの人に当てはまることかもしれません。現世は苦界というのが日本のようですから。
 でも、それがすべて悪いとはいいかねるのが世の中。ベトナム人はなぜというのを深く考えないようです。あるがままに受け入れる。でも、それは現状維持にもつながるから。

 

ベトナムの小説
戦争の悲しみ バオ・ニン著 めるくまーる
 ベトナム戦争(抗米戦)を北の兵士の目から見た珍しい本です。今まで雄々しく献身的に戦う北の兵士という一枚看板で語られていた北の正規軍や社会が、実際には脱走兵もあり、戦争のために?すさんだ一般民衆もいるという普通の姿で描かれています。普通だからこそ、悲しみも感じ、戦争後も社会に適応できない人間もいる。そうした戦争の悲しみがテーマとなっています。しかし、退役軍人会などからはかなりのクレームが付いたようで、今もってベトナムの自由の限界を感じさせる本でもあります。
 この本の翻訳に関しては、内容を正しく訳していないのではないかとクレームが付き、論争になりました。人民軍兵士の犯罪行為の部分を曖昧にしたのを初めとして、誤訳とは言えない改竄をしたのではとのことです。
 クレームをつけた方が、ベトナム語からの訳を別に本にしています(愛は戦いの彼方 遊タイム出版)。ここに載せているのは、英語版からの翻訳。さすがに両方をくらべるまではしていません。
改竄についての論争経過がうわさの真相に載っています。
http://www.jca.apc.org/~altmedka/uwa-16.html
http://www.jca.apc.org/~altmedka/uwa-17.html
http://www.jca.apc.org/~altmedka/uwa-18.html
http://www.jca.apc.org/~altmedka/uwa-19.html
http://www.jca.apc.org/~altmedka/uwa-20.html

誤訳についてのバオ・ニン本人のコメントがされている模様。
http://www4.osk.3web.ne.jp/~vnstclub/symposium10.html

虚構の楽園 ズオン・トゥ・フン著 段々社
 ベトナム人の家族観が分かるから絶対読みなさい、そう知り合いのベトナム人の方に言われて買いに行きました。
 物語の背景として54、55年頃の土地改革の失敗が取り上げられているため、ベトナム国内では発禁処分が解けていません。
 母と娘、姪と伯母の関係を軸に、成長していく娘から見た家族の悲劇を紡いだ物語です。ベトナム人にとっての家族がどういうものであるかが確かに分かります。

天と地 レ・リー・ヘイスリップ 角川文庫
 オリバー・ストーン監督で映画にもなったベトナム人女性の半生記。運命に弄ばれ解放戦線側から、米軍相手の闇商売を営み、ついには米国で暮らすことになった、本当に物語のような人生。ベトナム人女性の強さには参ります。でも、配偶者の選び方に何か功利的なものを感じるのは僕だけだろうか?
 映画になったのでつい読むのを避けていましたが、結構おもしろいです。

ベトナム旅行記
ベトナムぐるぐる 
なかがわ みどり&ムラマツ エリコ JTB
 イラスト付きの楽しい旅行記です。観光案内よりも、ベトナムに行って感じたことを文章、イラスト、写真で残しておこうという試みが、おもしろさを出していると思います。読んでいて、そうそうって思うことが多かった。
 しかし、あちこちで結構喧嘩しているのは大胆だなあ。でも、そのさなかでも写真を撮るの忘れないのは根性がある(笑)。
 女性の立場から見ているせいか、ベトナム女性についても結構辛口で、メコンデルタで出会った悪魔のような意地の悪い女のイラストには笑わされました。

ぶらりベトナム なりゆきまかせの一人旅
 森脇晶子 日本機関誌出版センター
 元気の良いおばちゃんがベトナムの日常生活に飛び込んで、行き当たりばったりで体験したことを綴ったという感じがする本です。シクロの運転手たちと交流したり、ベトナム人と一緒にヴン・タウへ海水浴に行ったり、民家に泊まり込んだり、飽きぬ好奇心で突撃していきます。その行動力には感嘆するばかり、おもしろいです。
 でも、ところどころでお説教めいたこと言っているのがいまいち気にかかってしまう。

忘れないよヴェトナム
 田口ランディ ダイヤモンド社
 最初読んだときはあんまり好きじゃなかった。だって、ベトナムのこと好きじゃないって公言しているから。でも、読み直してみて気持ちが変わった。確かにベトナムには好きじゃないところがある。どの国に対してもあるように。だからかえって、好きじゃないものを好きじゃないって言えるこの本はいいと思う。それに、好きじゃなくても忘れられない国なんだから。

日本人を通してみたベトナムの現在
アジア定住 野村進/井上和博 めこん
 アジアに定住する日本人を取り上げた本です。そこに定住する人のプロフィールを描くことによって、その国をあるいは日本人というものについて浮かび上がらせる、そういったアプローチの本です。自分の国は分かるというより身についたものですが、外国については少しいると分かった気がして、長くいると本当に分かっていたのか分からなくなる。でも、それでも良いかと腹を据える。そういうものかもしれません。
 ベトナムについては一人(サイゴンカラオケレストランのオーナー)しか取り上げていませんが、本全体として面白かったです。

コリアン世界の旅 野村進 講談社
 ベトナム関連の本の紹介のはずなのにコリアン世界とは?と思われるかもしれませんが、ベトナム戦争への派兵を通じて韓国はベトナムに関係していました。戦争後20年近くたってから、ベトナムへと舞い戻ってきた韓国人達。彼らが抱える夢と現実とのギャップは、日本人にとって決して他人事ではないような気がします。

アジア新しい物語 野村進 文藝春秋
 アジア定住と同様、アジア各国で生活している日本人を取り上げた本。同一人物についてもその後を描いています。
 野村氏の本は僕のお気に入りで、似たような感じのこれらの本を思わず買ってしましましたが、ベトナムに関しては、やはり一人しか取り上げられていません。
 しかし、取り上げられた人々はやはり魅力的に描かれています。

ベトナム料理
アジア菜食紀行 森枝卓士 講談社
 アジアのヴェジタリアンについて取り上げた本です。主として、インド、台湾、ベトナム、タイなどについて書いてます。ベトナムでは、コム・チャイとして知られる精進料理が取り上げられています。精進料理の系譜、その背後にある思想など、詳しく、また分かりやすく取り上げています。
 ベトナムのコム・チャイは肉を使わないため全体的に値段が安く、日常的には貧しい人が食べる傾向があようです。知り合いの留学生は、サイゴンでの学生時代お金がなかったからよくコム・チャイを食べていたと言っていました。

私的メコン物語 森枝卓士 講談社
 著者が自分の半生を振り返ることによって、自分の東南アジアとの関わりをひもとき、同時にメコン流域の食について紹介するという体になっている本です。
 ベトナムについては、難民キャンプでベトナム料理を習うところから始まり、インドシナ食日記へと続きます。

文化人類学的ベトナムの論考
ベトナム文化人類学 文献解題 日本からの視点
末成道男編 風響社
 日本人の研究成果を主に、ベトナム研究の総覧としてまとめられた本。まず、この一冊を読めば、ベトナム研究とその概観が得られるようになっています。ほとんど字引きのような書物なので、詳細については引用されている元の文献を見る必要はありますが、いろいろと自分で探すよりもずっと早いでしょう。2009年の発行のため、それ以後の研究についてはベット調べる必要はありますが。
 ドイモイ以降は実地調査が飛躍的に進んで、研究の分野も広がり、それまでの文献調査に加えて実証的な研究が進んでいることが、見て取れます。

ベトナムの少数民族
風景のない国・チャンパ王国 残された末裔を追って
樋口英夫 平川出版社
 現在のベトナムの少数民族の一つ、チャム人の現在を追った本です。かつてはチャンパ王国としてベトナムと覇を争い、やがて南へと押され消え去ったチャンパ王国。その末裔がベトナム国内に10万人ほど、カンボジアに30万人ほどいます。
 アンコールワットでチャム人の存在をレリーフで知った著者は現在に生きるチャム人に興味を抱き、チャムを探す旅が始まります。チャム人はベトナム、カンボジア、中国、そして日本にも住んでいました。昔ながらのヒンドゥーとして、古い形のイスラームとして、そして正統派のイスラームとして。様々な地域で、繰り広げられるかつてのチャンパ王国の末裔の生活に著者の興味がかき立てられ、この本に結実しています。どこの国でも圧迫され、迫害を受けたチャムの文化への同情と共感が根底にあるのです。
 チャムの遺跡であるミーソンは、ヒンドゥーの影響を受けた文化として僕にはおもしろかった。それと同じ感覚を著者が持っているのか、この本は僕にはとてもおもしろかったです。

エスニシティ<創世>と国民国家ベトナム 伊藤正子 三元社
中越国境地域タイー族・ヌン族の近代
 民族意識の形成、そして民族と国家の関係形成について、ベトナムの少数民族タイー族、ヌン族を対象とした研究書。学術書でありながら、このテーマを掘り下げる過程の出来事が本書を興味深いものとしています。ともに中国南部を起源とする両民族が、移住した時代によってベトナム国家との親近感の違いから別民族として形成され、元はタイー族であったものが再移住の過程を通してヌン族として扱われるなど、民族とは何かを考えさせられるものとなっています。

ベトナムの人々
女たちのベトナム 村田文教 めこん
 現代に生きるベトナム女性(だいたい若く40歳以下)へのインタビューを通して、現在のベトナムの状況を浮き彫りにしています。
 著者はハノイ支局に3年間勤めていたため、こうしたインタビューを合間に行っていたのでしょう。しかし、女性に絞ってのインタビューって、いいなあ。
 政治状況についてはかなり厳しく見ており、現在の体制がどこまで続くのか疑問を投げかけています。現実が先行し、政治が追いついていない傾向でしょうか?

ベトナムの社会
ベトナム司法省駐在体験記
武藤司郎著 信山社

 JICAによるベトナム法整備支援事業の専門官としてベトナム司法省へ3年間の駐在をした著者がその経験を語った書。一件整っているように見えるベトナムの法体制の盲点や特徴が詳しく説明されています。読後、現時点でベトナム投資をするのは、かなり冒険かなという感想を持ってしまいました。法治国家への道のりはかなり遠いように感じます。ベトナム投資を考えている会社の担当者、ベトナム進出企業の日本でのバックアップをしている部門の方は必読ではないでしょうか?
 あと、法体制のみならず、ベトナムに関する一般的な記述に関してもかなり率直に書いていると思いました。ベトナムに駐在していた人の本、あるいは現在住んでいる人の場合、いろいろと影響があるのでかなり押さえた記述になることが多いのですが、過剰な自己規制はしていないのかなという印象を持ちました。

ベトナムの政治と経済
ベトナム経済の基本構造
中臣久著 日本評論社

 外務省で長くベトナムに関係している筆者が、実体の掴みにくいベトナム経済について、表に出ている数字だけから迫ろうという意欲的な試みをした本です。ベトナムのような裏、または地下経済が経済の内のかなりを占める国の経済分析は難しいと思うのですが、表の統計数字の分析だけでもかなりの説得力を持つ分析ができていると思います。
 ベトナムがドイ・モイ体制に移らざるを得なかった背景としてのバオ・カップ制の行き詰まりや終始一貫した外的依存型経済の問題などが指摘されています。
 しかし、最後まで読むと筆者が言いたいことは経済そのものよりも政治体制の変革であり、それまでにいたる分析はその主張を説得力あるものとする裏付けであることが分かります。

ベトナムの対外関係 ー21世紀の挑戦ー
白石昌也編著 暁印書館
 現在のベトナムの政治・経済の状況をまとめた本です。編著者はベトナム研究者として有名な白石先生(現在は早稲田大学アジア太平洋研究センター)。この本の出版のきっかけは米越通商協定で、実際ベトナム経済に与える影響は非常に大きいものがあります。直後に起きた雷魚のダンピング課税の件や知的財産権についてもTRIPSをはじめとして良く記述されています。
  ただ、この本の中で一番面白かったのは、3年前の党大会でのレ・カ・フュー失脚の背景。 この項目を書いたのは、当時日経新聞のハノイ駐在をしていた記者の方ですが、当時フューの続投危うしという スクープ記事を出して、びっくりした記憶があります。なかなか、そんな政権中枢に迫る取材なんて、ベトナムではないと思っていたから。 結局、フューが権力集中を謀りすぎて、それを快く思わない勢力との衝突になり、 負けたということのようです。

ベトナム現地化の国際経営比較 ー日系・欧米系・現地企業の人的資源管理、戦略を中心としてー
丹野勲 原田仁文著 暁印書館
 タイトルの通り現在のベトナム進出企業についてアンケートの結果をもとに戦略方針の比較研究を実施した書。予想通り、日系企業では現地化が進んでおらず、欧米企業と比較すれば給与レベルも高いとはいえないためでいかに優秀な人材を採用、定着させるかが課題として見えてきています。

ベトナム人民軍隊 ー知られざる素顔と軌跡ー
小高泰著 暁印書館
 通称人民軍、あるいはボー・ドイと呼ばれるベトナム人民軍の実情を公開資料を追うことで迫った本。1975年の対米戦争までは、人民軍の公式文書により人民軍自体がそのあり方について公式見解を出しているが、それ以後は断片的に出されている布告、意見、軍広報機関記事などからしか伺えない。
 人民軍はベトナム共産党によって創設され、共産党の指導の下に運営されているため、党の方針を外れることはなく、ベトナム社会でも保守層をなしていると考えられているが、その実情が分かり、面白い。

ベトナム人から見た日本
アオザイ女房 −ベトナム式女の生き方−
近藤ナウ著 文化出版局

 ベトナム戦争取材で駐在していた近藤紘一氏と結婚し日本に来たナウさんは、ベトナムと日本の違いにあきれたり、驚いたり。その不可思議な日常生活で感じたことを書きつづった本です。ベトナム女性の強さ、優しさがにじみ出ていて、おもしろいです。日本社会の不条理さについてもちくりと書いていて、身につまされます。
 すでに絶版になっているのが残念だけど、近くの図書館などで探すと意外にあったりしますので探してみては?
 近藤氏と死別したナウさんは、現在娘のユンさんと一緒にパリに在住しているとのこと。