知的所有権

 不法コピーのCDや最近は中国製のコピーバイク(HONGDAなど)が出回っているベトナムですが、一体法律的な対応はどうなっているのだろう?と思われる方も多いと思います。ネットや本で調べたベトナムにおける知的所有権の状況を書いてみます。

 まず、知的所有権を巡る世界の状況です。
 最近読んだ本にアメリカのプロパテント戦略が載っていたのですが、これまで特許法を持っていたのは先進国だけ(世界の15%)だったのを、世界中に広げ(世界の90%)、アメリカの知的財産を守ろうとしているのが近年の世界的な状況です。知的所有権はちょっと難しい問題をはらんでいて、技術力格差の南北問題を固定する働きがありますから、発展途上国はかなり反発もしているのですが、世界に市場を与えているアメリカはさすがに立場が強く、押し通したようです。日本も今や世界二位の技術輸出国ですので(技術輸入の方が未だ大きいけど)、その恩恵にあずかる立場ですし、僕自身も技術者として知的所有権は守りたい立場ですから、ベトナムにおける模倣品の横行はかなり問題かなと思っています。

 ベトナムにおける知的所有権関係の現状ですが、まず著作権と工業所有権について民法の第6編に規定がありました。著作権関係が第745条〜779条、工業所有権が780条〜805条、技術移転に関してが806条〜825条です。しかし、高々数十条で全てを規定できるはずもなく、その下位に位置する政令や布告を見ないと実際の運用は分からないようです。政令や布告などは、なんか場当たり的に出してそうな気もします。
 知的所有権の国際条約対応は、著作権については、1996年時点では、ベルヌ条約、万国著作権条約のどちらにも加盟していなかったようです。今はどうなんでしょう?
 一方、工業所有権については、パリ条約(1949)、WIPO設立条約(1976)、特許協力条約(1993)にそれぞれ加盟していて、出願権、優先権、保護規定などの原則については、守られているはずなんですね。どうもイメージと違う。はずのところが実際は...という感じでしょうか?
 あと、ベトナムの特許庁ですが、1997年頃には審査などの業務を行う人員が14人くらいしかいなかったようです(これではとても業務は行えているとは思えない...)。日本からは、経済協力としてJICAの専門官が特許関連の技術指導に行っていたようです。

 さて、今後ですが、アメリカがあちこちの国に押しつけをしていることは最初に書きましたが、ベトナムについても2000年の9月にアメリカと二国間協定を結び、知的所有権についても整備するようです。特許は、今後12ヶ月の間(というと今年2001年の9月まで?)にTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定:知的所有権のミニマムスタンダードと言われています)に完全に対応した体制とする。そして、なんと著作権についても今後18ヶ月間の間に、体制を整えるとのことです。さすがアメリカ、力業です。しかし、自分のところだけ世界標準にしていないのにはあきれてしまいますが。自分の都合に合わせて、立場を使い分けていますね、本当に。
 TRIPS協定に加盟するためには、

1.特許権の保護期間を10年にすること
2.半導体集積回路の回路配置を保護(保護期間10年)の対象にすること
3.取り締まり手段の強化

が課題としてあげられていたようですから、アメリカとの二国間協定でこのあたりは改善されることになったのでしょう。

 さて、これで、これまでコピー天国だったベトナムもその汚名を返上することになるのでしょうか?でも、CDが売れても収入につながらなかった歌手など、ようやく正当な収益を得られることになるので良いことだと思うのですが。
 しかし、中国製バイクの問題などを見ても、いろいろと簡単にはいきそうにないですね。