ビエンホア
ビエンホアはサイゴンの東方約30kmのところにある工業都市です。ベトナム戦争中にはアメリカ軍や南ベトナム軍の空軍基地が置かれていました。サイゴンの旧大統領官邸を爆撃した飛行機もここから飛び立ちました。最近では富士通が進出するなど工業団地として有名ですが、特に見るものがあるわけではありません。
 その見るものがないところに出かけたのは、浦和に住んでいた頃によく出かけた大宮のベトナム料理屋さん一家がこのビエンホアの出身だったからです。特に何かを頼まれたわけではなく、サイゴンから日帰りでどこかに行こうと思ったとき、この街のことが思い浮かんだだけだったのです。
 どこか行きたいところはあるかと聞かれて、知り合いのクンさんにビエンホアに連れて行ってとお願いすると何で?という顔をしたけれど、特に理由は聞かれずバイクで連れて行ってくれました。
 ビエンホアに着いて、一人で歩き回ってくると言って歩くと、そこは本当に何もない地方都市でした。外国人と分かっていても誰も話しかけてこないし、のんびりと歩くことができました。ある中学校の前では、子供達に写真を撮ってもいいかと聞いても恥ずかしがって答えないので、つたないベトナム語で自分の自己紹介をしてようやく話が弾むかなと思ったら、授業のベルが鳴ってさよならになり、残念なことをしました。
 ドンナイ川の方に歩いていくときれいな建物と公園のようなものがあったのでそこでのんびりしようと思っていると、女子中学生のグループが来ました。話しをして、じゃあ写真を撮ろうということになって、止めに現れたのがグェットさんでした。
 なんでもそこは撮影禁止区域だとかの話しで、かなり厳しい表情で制止します。川の向こうを写すのもダメか?この少女達を写すのもダメか?と聞くと、いちいち近くの掃除をしているおじいさんに聞いて、許してくれました。そこで女の子達と一緒に写ってくれないかというと急に顔がほころび、少女の顔になりました。それまでは先生か何かと思っていたのですが、彼女も高校生だったのでした。
 みんなの写真を撮って、じゃあ今度は二人で一緒に撮ろうと言って快諾してもらったところに現れたのが本物の公安でした。今度はさすがに許してもらえず、僕は外国人なのでおとがめなし(というか英語が話せなかったのでしょう)だけど、彼女は早々に追っぱらわれてしまい、残念なことになりました。
 何でもそこは人民委員会の建物(日本だと市役所)だったようで、さすがに本当に撮影禁止なのでした。地方に行くとサイゴンよりも依然として何事も厳しく制限されているようです。サイゴンだと個人の家に外国人が行っても大目に見られますが、地方だと未だにいけないということもあるようです。

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