ネットのつながりで、旅行人のガイドブック『メコンの国』のベトナム語会話を担当することになり、ついでに食べ物に関するコラムも書く羽目になったので、その原稿を載せておきます(ついでに一部追加しているけど)。なんか自分の書いたものが活字になるというのは、結構嬉しいものですね。
 一カ所、基本的な間違いがあって、訂正をお願いしているのですが、どこでしょう?僕は書いた覚えがないので編集の時に付け加えて、間違ったのでしょうね。
 僕のベトナム料理の知識は、そのほとんどをベトナム料理店『青いパパイヤ』のタンさん、ハーさんに負っています。この場で改めて、お礼申し上げます。

●ベトナムの食べ物
 宗教的なタブーがないこともあり、ベトナムの食卓は多種多様だ。日本人にはなじみの薄いあひるやヤギの他、犬や猫も食べてしまう。タイと同じく虫を食べることもある。タイで有名なタガメもベトナムでも食べる。
 食事処は高級レストランから屋台まであるが、庶民的な食堂は「COM」という看板が目印のコム・ビン・ザン。好きな惣菜を選んで食べる。ちなみに食堂で出されるおしぼりは有料である。

ヌックマム
 味付けの基本となる魚醤。小魚と塩を樽に詰めて寝かせ、たまった上澄みを原料にする。フーコック島、ファンティエット産のものが有名だ。産地によって原料となる小魚の種類も違うため、味も変わる。一番おいしいのは一番絞りとのことだが、産出量が少ないため、外国人の手にはいることはまず無いと言われる。
 ヌック・マムにレモン汁、砂糖そして好みにより唐辛子を入れ加熱して作る調味料ヌック・チャムは、どこでも食べ物の味付けに出てくる。ヌックチャムは各家庭で味付けが変わり、その家の味を作る元となっている。南部は甘めの味付けになっている。
 エビから作ったマム・トムは、臭いがきついので好き嫌いは分かれるところ。

麺 類
 現在最も一般的なのが、米粉から作った「フォー」。朝食として、どこでも食べられている。牛肉入りはフォー・ボー 、鶏肉入りはフォー・ガーという。フォーが今ほど一般的になったのは比較的最近のようで、南部ではメコンデルタが本場のフーティウが以前はよく食べられていた。ニャチャンあたりでは、朝ご飯にミーを食べていたようである。
 「ブン」も米粉製で、ところてんのように押し出して作られる。他にも春雨「ミエン」、小麦粉製の中華麺「ミー」、メコンデルタ名物(特にミトー)の「フーティウ」、中部クアンナム地方の名物できしめんのように幅の広い「ミークアン」など、麺にはさまざまな種類がある。ホイアンのカオラウ、フエのブン・ボー・フエ、ハノイのブン・チャーなど地方名物の麺料理も多い。

バン・セオ Banh Xeo
 米粉を溶いてエビ、モヤシ、ブタ肉などの具を混ぜて焼いたベトナム板お好み焼き。どちらかというと硬くしたクレープといったところか?野菜で包んでヌックマムベースのタレで食べる。

カン・チュア Canh Chua
 これも南部の代表的な料理。もやしやトマトなど野菜が入った酸味のあるスープ。酸味はタマリンドでつける。ニャチャンなどの海沿いの街では海魚を使うが、普通は雷魚など川魚を具にすることが多い。

春 巻
 揚げ春巻はチャー・ヨー、生春巻はゴイ・クォン。揚げ春巻きは、簡単なようで奥が深い。一口かみしめたときに口の中に広がるうまみは忘れがたい。レストランの味をこの揚げ春巻きで順位付けするという話もある。隠し味に芋を使っているそうで、パパイヤのハーさんはサツマイモを使っていると言っていた。現地で使うのは、sa('nという芋だとのことである。
 揚げ春巻きのことを、北部ではネム・ザンと言うが、これはチャー・ヨーとは別物と考えた方がいいのではという気が最近してきた。巻き方が違い、食感、味ともかなり違う。チャー・ヨーは、北部ではネム・サイゴンといった方が通りがよいというが、まだ北で見たことはない。
 ゴイ・クォンは南部はみそだれ、北部はヌック・チャムで食べることが多い。

バンミー Banh Mi
 インドシナではおなじみフランスパンのサンドイッチ。豚の脂身や野菜などを挟んで食べる。

チャオ Chao
 おかゆ。アヒル肉入りのチャオ・ビット、豚の内臓入りのチャオ・ロン、鶏肉入りのチャオ・ガーなどがある。家に招かれてお粥をごちそうになるというと、鳥をしめるところから作り始めるので、時間がかかるがおいしい。

チャオ・トム Chao Tom
 エビのすり身をサトウキビの芯にまき、焼いたもの。これが結構おいしい。

サラダ
 ゴイ・センはハスの茎、エビ、香草などを和えたサラダ。ゴイ・ドゥ・ドゥGoi Du Duは青パパイヤのサラダ。青パパイヤのサラダはタイやラオスでも食べるが(イサーンのソム・タム)、味つけはまったく異なる。ゴイはサラダという意味。

ホビロン Hot vit lon
 ふ化しかかったアヒルの卵をゆでたもの。塩と香草で食べる。ベトナム人にはこれが大好きな人が多い。チキンスープとゆで卵を合わせたような味という人が多い。ちょっと独特の癖がある。北部ではチュン・ビット・ロン(Trung Vit Lon)と呼ぶが、北部ではもう少しゆで卵に近い。南部の方が羽ができていたり、より大きくなったところで食べるようである。また、食べ方も北部では皿にあけるのに対し、南部では卵の頭をスプーンでこつこつと割り、すくって食べる。

カフェ
 コーヒーはバンメトート産が有名。コップの上にアルミフィルタを置き、コーヒーの粗く挽いた粉をぎゅっと抑えるようにして中蓋を締め、その上からお湯を注ぐ。コップにコーヒーが溜まるのをひたすら待つ。ミルク入りホットコーヒーは「カフェ・スアー」、ブラックコーヒーは「カフェ・デン」、アイスコーヒーは「カフェ・ダー」。

ビール
 サイゴンでは「333(バーバー)」や「BGI」、ハノイの「ハリダ」が有名だが、ハノイの「ハノイ」、フエの「フーダ」、ニャチャンの「ヴィナゲン」、など、周辺諸国の中でも群を抜いて種類が豊富。口当たりが軽く、こくはあまり感じない。暑い最中にごくごくと飲むにはよいと思う。外国のビールではタイガーやハイネケンが人気。
 ビヤホール「ビアホイ」で飲むビールはとても水っぽい。

デザート
チェー Che
 お汁粉の類。緑豆をすりつぶして、タピオカを入れて食べるチェ・ダウ・サン、トウモロコシのお汁粉、五目(実際には十種類くらいの具が入っている)お汁粉など、豊富。学校帰りの女の子達が集まって食べているのは、どこの国でも似たような光景か。

精進料理 Com chai
 仏教徒が多いお国柄なので、精進料理もある。精進料理としては、肉以外の材料を使って肉の味を出す、もどき料理が多い。材料費が安いため、精進料理は普通の料理よりも安い。そのため、貧乏人や学生がよく食べている。

●ハノイの名物料理

ブン・ チャー Bun Cha
 米粉で作った麺(ブン)をゆで、ヌックマムをベースにしただし汁につけて食べるつけ麺。標準セットは炭火で焼いた肉のチャー(Bo vienやBo mien)とあとは蔓のある野菜やレタスに似た葉で、これらを入れて食べる。少し甘みのある出汁と相まって非常においしい。ブン・チャーを頼むとネムもいらないかと言われることが多く、これもうまい。汁は夏は温めていないので、暑い季節にはこれに限るという人が多い。冬は少し暖めて出してくれる。
 ブン・チャーは昼の料理らしく、夜は食べられない。朝はフォーを食べるので、ブン・チャーといえば昼御飯である。
 ベトナムへ行った日本人でベトナム料理で何が一番好きかと聞かれて、このブン・チャーを上げる人も多い。ただ、このブン・チャーは北部の料理なので、その存在を知らない日本人が多いのは残念である。また、南部のベトナム人もこの存在を知らない人が多い。南部の人間は北部の料理を馬鹿にしているので、ぜひともこれは試して欲しい。

犬肉料理 Thit Cho
 ハノイを訪れる旅行者の間で密かな人気(ホントかな?)なのが犬肉料理である。犬肉は専門店でしか食べられないようで、また、月のはじめに食べるとその月の運が落ちるということで、旅行者が食べる機会は限られている。
 店によっては犬肉づくしのコースを用意していて、鍋あり、焼き肉あり、腸詰めありとバラエティに富んでいる。肉は油身が多く独特の臭みがあるので、好き嫌いは分かれるところ。北部の人間にとっては好物のようだが、南部の人間はあまり食べない。また、材料費が安いためか、食べているのも労働者風の人たちが多い。
 犬を自分のところでしめる店もあるようで、犬肉料理屋の周辺では、明け方になる「キャイ〜ン」という悲しい声が響きわたることもあるとか。それに耐えられず、宿を変えた人もいる。宿を決めるときに気になる人は確認してみよう。
 犬肉料理の店は、西湖(ホー・タイ)の東岸(紅河との間)に集まっているが、旧市街にもある。

たにし Oc Hap
 西湖で採れるたにしを蒸したものもまた、ハノイの名物である。蒸して唐辛子や生姜ベースのタレで食べるシンプルなものだが、酒のつまみにはもってこい。砂がよく抜けていなくてややジャリジャリしているところが大ざっぱ。このほかにもオック・ニョイなどタニシ料理もバラエティにとむ。

バイン・トム・ホー・タイ Banh Tom Ho Tay
 米粉の衣で揚げたエビの天ぷら。衣をかりかりに揚げているが、中身のエビはぷりぷりしていて、歯ごたえがいい。チュック・バック湖畔に名前そのままのレストランがある。

バイン・ゴイ Banh Goi
 これも北部の料理のようで、南部では見ない。見かけは大きくした餃子だが、中身は肉を叩きつぶしたものや春雨が入っている。ちょっと甘めの汁につけて食べる。
 李国師寺の横に有名な店があり、ハノイの人間に聞くとああ、あそことうなずく。看板は出ておらず、外国人の姿も見かけることは少ない。メニューはバイン・ゴイだけなので、量と飲み物を何にするかだけ伝えればよい。

チャーカー Cha Ca
 あまりにも有名なハノイ名物。名物にうまいもの無しの通りだという人もいる。有名なチャー・カー・ラボンではこれしか出していないので、注文は何人分頼むかだけである。実は私はまだ食べたことがない。

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