ハ・タイ


ハ・タイ省タイ寺近辺は北部ベトナムで最も美しい田園風景が見られるところという話が、『ハノイからの招待状』に書かれており、行きたいと思っていました。そこで友人の知り合いが車を運転手付き一日30ドルで借りてくれ、友人とそのまた友人のベトナム人と一緒に行って来ました。

ハノイ市外を抜けるといきなり悪路に変わり、そこはもうベトナムの田舎です。いくつかの小さな村々をごとごといいながら車を飛ばしていきます。ハノイ中心部から距離にすれば30km程度のはずなのにタイ寺まで行き着くのに二時間ほどかかりました。 チュア・タイは由緒あるお寺で、背後に北部ベトナムによくあるような切り立った山がそびえ、前面には池を抱えています。

寺の中には多くの仏像がありますが、割合派手に彩色しており、まるっきり中国的な感じがします。古いお寺だから漢字の額とかもたくさんかかっているけれど、彼らベトナム人はそれを読めず、日本人の僕がそれを読めるのも考えれば当たり前なのだけど、不思議な気がしてきます。

寺に入ると一人の女の子が勝手に案内を始めてくれました。いろいろと説明するのだけど、ベトナム語なのでさっぱり分かりません。寺の中をしばらく連れ回してくれたあと、裏山(サイ山)の方に案内してくれました。ただの山かと思っていたら、それは寺の一部だったのでした。山の上にもいくつかの僧坊が続いており、下の僧坊とはまた違った風情を醸し出しているのでした。しかし、そこまでの道は結構上ります。ほぼ山の中腹に地形をそのまま利用したような僧坊がいくつか建っているのです。

そうしたところを巡ったあとは、サイ山の中に広がる鍾乳洞へと案内してくれました。鍾乳洞の中はかなりの広がりを持っており、懐中電灯を使わないと足下が不確かで怖い思いをします。僕らは運動靴なのに対しベトナム人の友人は革靴、案内の女の子はサンダルと密かに大丈夫だろうかと案じていたのですが、実際のところ、助けてもらったのは身動きしやすいはずの僕らでした。どこか戦争中の身のこなしはこうだったのかと思わせられるような俊敏な動きで、なかなかの光景でした。もちろん彼らは若いので、抗米戦争などには参加していないはずなのですが。



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